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「おい?」
龍の声だ。
わかっているけれど、今の莉依子は身体を動かすことが出来ない。
口を開けてみた。喉の奥が貼りつくようでうまく声を出すことが出来ない。
「おい莉依子、そろそろ出ないとのぼせるぞ」
龍の声はすぐそばの距離にあるはずなのに、何かを間に挟んだようにこもって聴こえる。
「おい莉依」
「…………ゅう、ちゃ……」
「莉依子? おいまさか」
懸命に口を動かしながらも、莉依子は空気が漏れ出るような声しか出すことが出来なかった。
しかし次の瞬間、大きな音を立てて浴室の扉が開かれる。涼しい空気が流れこんできて、莉依子の耳を撫でていく。
「この、バカ!」
莉依子の姿を目にした瞬間大声で怒鳴った龍は、1度脱衣所へ戻り、大きな何かを持って戻ってきた。
霞んだ視界の中でしか見えない莉依子には、それが何かわからない。しかし、脇の下に長い何かが入り込んで莉依子の右肩が持ち上がったと同時に、身体に龍が手にしたそれで包まれたのがわかる。
タオルだ。大きなバスタオル。
ふわふわしていて気持ちがいい。
身体に触れるやわらかさと冷たくて新鮮な空気のおかげで、莉依子の視界も頭も、じょじょに晴れていった。