「……まあいい。俺が拭いとくから。お前はゆっくり風呂に浸かってこい」
「うん、ありがとう。……ごめんね龍ちゃん」
「もういいって。ゆっくりな」
「………うん」

 扉の向こうの龍が何やら動き、今度は身を屈めた。
 タオルを持って、床を拭きだしたのだろう。莉依子が風呂に入ると言った時の龍はテレビを見ていたから、今回の事で勉強の邪魔はしなかっただろうけど、それでもやはり落ち込んでしまう。
 
 下着を隠したところまではせっかく女の子としての恥じらいを保てていたのに、よりによって裸のまま龍の前に立ってしまった。

 身を屈めている龍の影が、遠くなっていく。
 脱衣所を出て、廊下より向こうへと移動していく。

『龍もお風呂は大好きなんだよ』

 ふと、お母さんがそんなことを言っていたなと思い出した。
 お風呂嫌いの莉依子を少しでも入らせるために、『龍は好きだよ』と言っていたのだろう。それでも莉依子は好きになれなくて、逃げる毎日を繰り返していた。