「ちょ、龍ちゃ」
「風呂はためていい。あと濡れたまま出てくるな。以上」

 莉依子が振り返る暇も与えないまま、龍は勢いよく浴室の扉を閉めた。

「……なんかまずかった?」
「まずいどころじゃねーだろ馬鹿者」

 ひとり言のつもりが浴室に響いた莉依子の声に、龍は浴室の外で答える。
 浴室の扉は、擦り硝子のような曇ったものになっていて、向こう側にいる影は見えていても、はっきりとは見えないようになっていた。
 脱衣所から見ても、莉依子がはっきり見えないということだ。

 それでも、龍が腕を組んでいる様子だけは察することが出来た。

「勝手なことしたらダメかなと思って、聞きに行っただけなんだけど……」

 龍に対する気遣いが足りなかったことに、莉依子は肩と声を落とす。

「了承を得ようとしたお前の行動は責めてない。けどな、さすがに裸のままはおかしいだろ」
「………ごめんなさい。ちょっと考え事しててぼーっとしてたっていうか」
「あと少しは拭け。あー……ここからあっちまでびっしょびしょだマジで」
「それはホントにごめん」

 浴室に戻って来る途中、数回龍が足を滑らせかけていたのは莉依子にもわかっていた。