蛇口を捻り、シャワーの水が勢いよく飛び出てきた。
 本当はもっと温かいお湯の方がいいのはわかっているけれど、莉依子は冷たい水を浴びたい。
 目を瞑って頭からそれを流し続ける。

 冷たくて気持ちが良くて、汗も汚れも何でも全部流してくれる気持ち良さ。

『ほら、ね? 怖くないでしょう?』

 その時、昔の想い出が過ぎった。
 もっともっと莉依子が小さかった頃はシャワーもお風呂も大嫌いで、『入ろうね』と言われる度に逃げ出してはつかまっていたのを思い出す。

『こんなに汚れてるんだから綺麗にしないとダメなの。ね?』

 優しい声とは裏腹に、しっかり莉依子を抑え込んだお母さんは、頭から耳の裏まで綺麗に洗ってくれた。 
 今でも本当はあまり好きじゃないけれど、身体が清潔に保たれることの気持ちの良さは好きだ。

『はい、きれいになったね。じゃあ次、湯船に入ろうか』

 シャワーを止めると同時にそんな声も思い出して、莉依子はふむと考える。
 龍は「シャワーに入っていい」と言ったけれど、勝手に湯船にお湯をためたら怒るだろうか。