「貸すだけだからな。泊めるだけだからな。変な事考えるなよ」
「さっきからずっと思ってたんだけど、なんなの変なことって」
「うるせぇいいから早く入れ」
「えー? 話しかけてきたのは龍ちゃんの方なのに」
「だからちゃんは……もういい、早く入ってこい。そのドア出りゃすぐ向こう側だから」
「はーい、わかりました」

 莉依子は自然と頬が緩むのを自覚しながら、風呂場へと向かった。

 龍があの家を去ってから、2年。
 会いたくて仕方なかったのも本当だし、元気に暮らしている姿を見たかったのも本当だ。
 だけど何より、莉依子にとっては龍とこんな風に会話をすることが密やかな夢だった。
 
 どうにも仲良く話すというよりは口喧嘩のようになってしまうけれど、それでも嬉しくて胸がいっぱいになっている。

「ん? ……うまく脱げないな」

 脱衣所に立った莉依子は、腕をクロスしてTシャツを脱ごうと試みた。
 しかし、どうもうまく顔が抜けない。
 今誰かにこの姿を見られたら、絶対笑われる。
 とんでもなく面白いことになっている気がする。