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「おい、莉依子。莉依子?」

 懐かしくて、大好きな声が聴こえる。
 昔はよく大きな声で名前を呼んで、私を呼び寄せて、小さな手で撫でてくれた。
 そういえば、いつから名前をあまり呼ばれなくなったのだろう。何となく思い出せるような気がするけれど、ひどく寂しい想いに囚われてしまうから、忘れようとしていた。

「莉依子」

 呼ぶ声が続く。とても心地がいい。

 夢を見ているのかな。
 とびっきりの良い夢を。

「…………ん?」

 ゆっくりと重い瞼を開いていくと、莉依子の肩が他でもない龍の手によって掴まれ、前後左右に揺さぶられていた。
 そして今日だけで何度目だろう、呆れた龍の顔がドアップでそこにあった。
 近くで見られるのは嬉しいけれど、この状況になっている原因が未だ整理できない。

「……あれ? りゅう……」
「あれ、じゃねぇよ。人が真面目に課題やってるっつのに口開けてグースカ寝やがって」
「え? ねてた?」
「がっつりな」

 はーあ、とこれ見よがしにため息を吐きながら、莉依子の肩から手を離し、ぼりぼりと頭を掻きながら龍は元の姿勢に戻る。
 どうやら本当に眠ってしまっていたらしい。「龍のにおいが落ち着いて」なんて言ったらどんな反応をするだろう。

 寝てる間に起動していたらしい扇風機の緩やかな風と窓から入る風がうまく作用しあって、部屋の中はその季節より涼しく感じた。