「難しい言葉がいっぱい」
「だから課題だっつってんだろ。何度も言わすな。つーか高校生でその台詞は痛いぞ。ガキか」

 莉依子は痛いところを突かれて「ぐう」と胸を抑えながら、持っていた分厚い教材を元の場所に戻した。

「……うるさいな、苦手なだけだもん」
「どーだか。ま、質問に答えるとだな。俺は教職課程に登録したから夏休みでも特別講義があるんだよ」
「へ、へえ?」

 頷く莉依子を龍は一蹴する。

「お前絶対わかってねーだろ」
「え、あ、まあ」

 にへら、と曖昧に笑う莉依子を一瞥し、龍はまたため息をつく。
 眉を顰めているか呆れているか怒っているか、ため息をつくか。
 龍の表情として今日はこのバリエーションしか見ていない気がする。

「教師になる勉強ってことだ」
「きょうし」
「先生だよ。マジで大丈夫かお前」
「……先生になるの?」
「それはわかんねーけど。こんな時代なんだし武器はあって困んねーだろ。まあ受かんねぇとなれねーけど、受ける資格すら取れないのとは違うし」

 邪魔すんなよ、と指さしをしてまで莉依子へと念を押すと、龍は眼鏡ケースに手を伸ばした。

 ……あ、それまだ使ってたんだ。

 艶のあるネイビーの眼鏡ケース。
 確か大学受験の前に、「願掛け」と言って買ったのだと思う。
 莉依子は抱えた膝の上に顎を置き、小さく訊ねる。