「……ついて来い」

 微かに聞こえたその声に、莉依子は飛び上がって後に続く。

「いいの? ほんとに? 泊まっていい?」

 莉依子は半歩前を歩く龍のうしろについて回りながら、龍のバッグや肩をつんつんとひっぱって歩いた。

「引っ張んなよ」
「だって返事もらってない!」
「ついて来いっつってんだからいいってことだろ。わかれよ」

 龍の心底面倒臭そうな目線すら懐かしく思えて、思わず腕を組む。
 ぎょっとしたように振り払おうとしているけれど、本気じゃないくらい莉依子にもわかった。
 なんだかんだで、龍は強く出られない。

「バカ、ひっつくな」
「さっき龍ちゃんから腕組んできたくせに」
「組んでねーよ。ひっぱってきただけだろっつーかだからその龍ちゃんてやめろ」
「龍ちゃん、ありがとう」
「やめんぞマジで」
「ごめんなさい」
「……3日間だけだぞ。それとお前、変な事すんなよ」
「それ、たぶん女の子の台詞じゃないの?」
「お前に手出すほど飢えてねぇ」
「へえー、それはそれは。大学生活が充実しているようで」
「すげぇムカつく」

 兄妹がじゃれあうように離れたりくっついたりを繰り返しながら、龍のアパートへと向かった。