進学のためと、龍が実家を離れて2年。

 夏休みや年末年始が来る度に、龍の両親が――特に母親が――「少しは家に帰ってきたら」とそれとなく催促し続けてきたにも関わらず、1度も帰ってきていない。
 龍の携帯の留守電にメッセージを吹き込む彼の母親の様子は、見ていて胸が痛かった。

「会いに来たんだよ」

 もう1度、言葉にする。
 見つめられることに慣れていないのか、万が一にも照れているのか。顔を逸らしてしまった龍は、なかなか莉依子の方を向いてくれない。

「……たかが2年帰らなかったくらいで」
「龍ちゃんにとってはたかがでも……龍のお母さんたちにとっては、たかがじゃないんだよ」
「つかタイミングも最悪だし」
「タイミング?」
「や、それは関係ねぇ気にすんな」
「あのね龍ちゃん。お母さんたちは仕事があって来られないから、私が来たの。住所も聞いて」
「………」

 はあ、とわざとらしくまたため息をついた龍は、しばらく俯いて沈黙した後立ち上がった。

 ……笑った顔が見たくて来たのに。

 がっくりと肩を落とした莉依子は、ピリ、とかすかな視線を感じる。
 ハッとそちらを見ると、こちらに背を向けて歩き出そうとした龍が、ちらりと横目で莉依子を見遣ったのに気づいた。