「選択間違ったかな……」
「は? せんたく?」
「ううんこっちの話」
「何だよそれ」
 
 ひとりごちたつもりが、聞こえていたらしい。
 更に眉間の皺を深くした龍は、語尾を強くした疑問形で念を押すように訪ねてきた。けれど莉依子はそれに答えることはできない。
 後戻りなんてことも、今更出来ない。
 
 顔を上げてぱちりと目のあった龍を見つめると、莉依子は自分なりにとびきりな笑顔を作り、お願いした。

「ねえ龍ちゃん」
「ちゃんはもうやめろよ」
「じゃあ龍くん」
「気持ち悪い」
「茶化さないでちゃんと聞いてってば」
「はいはい。で、何」
「あのね。3日間だけ泊めて」
「は?」
 
 龍の口がポカンと開いた。
 莉依子は思わずにんまりしてしまう。
 
 そう、その顔が見たかった。
 外ではクールを装っているけれど、本当はクールどころじゃない。
 変わっていない。昔から。
 
 思いの外大声が出てしまったことにたじろいだ様子の龍は、周囲を見遣った後、莉依子の隣に腰を下ろす。
 龍は心底疲れた顔をして、ハアァアと長いため息を吐いた。

「お前さ……何言ってんのかわかってんの」
「わかってるよ。龍ちゃんこそわかってるの?」
「だ、ば、お前な? いくらお前でもそれは、てかだからちゃんはやめろって」
「ただの『隣のクソガキ』を泊めることに、何か抵抗でも? 龍にーちゃん?」

 ぐ、と喉をつまらせる龍を見ていると、心底楽しい。
 ヒトをいじめて楽しい趣向は持ち合わせていなかったはずだけれども。これは楽しい。