ぶんぶんと手を大きく振りながら、笑顔で「りゅーーー!」と叫び続ける莉依子を見るや否や、もの凄い勢いでこちらへと走ってきた。
 今度は真顔だ。怖いくらいの真顔だ。

「バカ! んな大声で呼ぶな!」

 思いきり肩で息をしながら、莉依子の元へと辿りついた彼――久住龍の開口一番は、これだった。
 感動の再会とはとても言えない表情を隠さず全開にした龍は、両手を大きく広げた莉依子をまるっと無視をして、がっしりとその片腕をホールドした。
 そのまま半ば引きずるように駅前の広場にあるベンチに莉依子を座らせ、むっつりとした不機嫌顔で見下ろして訊ねてくる。

「なんで来たんだよ。こんな急に」

 すごむような低い声。
 当然と言えば当然だが、予想していたよりだいぶ酷い表情だ。
 ちらりと龍の顔を確認し、ひとつため息をついてから莉依子は答える。

「……夏休みだから」
「ああ……。そういやーでかくなったなお前。高校生だっけ?」
「ひっど! 『だっけ?』って何よ大体龍が」
「で? 夏休みの高校生がわざわざ、な・に・し・に! 来たんだよ」

 龍は莉依子の言葉を遮り、腕を組み直して嫌味のように『何しに』を強調しながらため息をついた。
 
 莉依子は、龍の笑った顔が大好きだ。
 目の前の龍からそれが明らかに遠のいているのを感じ、少しだけ後悔する。