「あ!」

 目当てを見つけて思わず叫ぶ。
 対象の背はそれほど高くない。完全に人波にまぎれこんでいる。しかし莉依子にはすぐにわかった。
 襟ぐりがVの字に広がったネイビーのTシャツに、ジーンズ。

 変わってない。変わってない。
 あの子の定番だったものだから。

 背負っている深い青色が意図的に色あせたような大きなバッグは、おそらく最近買ったものだろう。初めて見たものだ。
 髪型は……全体的にはまあ、いいとして。

 前髪が長すぎない?

 斜めに流したような髪が、微妙に目にかかっている。
 眼鏡をかけた時確実に邪魔になりそうだ。彼の母親が見たら間違いなくバリカンを持って追いかけるだろう。

 目の前に現れた彼に我慢することができず、莉依子は名前を大声で呼んだ。
 先程の中年男性ならずとも何人かの通行人がぎょっとしたようにこちらを振り向いたが、そんなこと構ってはいられない。

 会いたかった。
 ずっとずっと、会いたかった。
 
 当の相手はと言うと、突然大声で自分の名を呼ばれた事に驚いたようで弾かれるようにこちらを見てから、一度周囲をキョロキョロと見回す。
 
 そして、視線がゆっくりと莉依子へと向いた。
 表情は明らかに曇っている。