それは例えるならば、生物というよりもうねる波のようにひしめいていた。
 その中にひとりふたり抵抗される存在がいたとしても、いとも簡単に消してしまうであろう勢いのまま、改札口へと波は吸い込まれてくる。
 しかも皆が皆、下を向いて。
 
 あえて屈みこむようにしてそれらを見てみると、揃いも揃って何がつまらないのかほとんどの人間たちは無表情か眉間に皺を寄せているかのどちらかだ。
 稀に表情のある人間だって、倣うように手元に持った液晶画面を見つめているだけ。
 改札口を出てすぐには青空が広がっているというのに、上を向く人すら全然見当たらない。

 「……なんかブキミ」

 改札口から少し離れた柱にもたれて見ていた莉依子は呟いた。
 屈みこんでいた姿勢を正すと、少し離れた場所に立っていた中年の男性がびくついたように一瞬こちらを見る。

 そんなに驚かなくてもいいのに。

 確かに結構な時間屈みこんでみたり飛び跳ねてみたりしていたが、その度にこの人は不可思議な物体でも見るように莉依子を見ていた。
 
 今はそんなことよりも、目の前に繰り広げられている世界だ。
 ヒトというよりモノみたいだと思う。
 これを日常として暮らすあの子がそろそろ来るはずなんだけど――と、莉依子はあふれる『ヒト』の大群の中にそれを捜す。
 改めて、出来るかぎりの背伸びをして目を凝らした。