『さっきおまえにしたのと同じ話』
『ってことは、親ウザいみたいなやつ?』
『そう』

 ツルの手が止まる。俺はツルを見た。
 手入れされた眉間の皺が更に深くなったツルは、ルーズリーフではなく俺を見た。
 似合わないくらい神妙な面持ちをして首を横に振る。

「え、なんだよ」

 つい声をあげたところで講師の咳払いが聞こえた。
 俺は「すみません」と軽く頭を下げて、もう一度書きだす。

『俺マズイこと言ったわけ?』
「………」

 ツルは何やら考え込む素振りをしてから小さく息を吐き出すと、またペンを取り出した。

『それはマズイかも。よりによって安達に』
『だからなんで』

 食い下がる俺に珍しく苦い顔をしたツルは「軽々しく誰かに言うなよ」と低く念押しをして、ゆっくりと俺のルーズリーフに答えを書く。

 書き終える前に読解してやろうと見ていた俺は、すぐに自分の発言を酷く後悔する羽目になる。

 あの時の安達は俺を責めようとはしなかった。
 ただ、楽しく話が出来そうにないからとだけ言っていた。

「……つまりは……」

 講師の声が遠くなっていく。
 後悔なのか衝撃なのかわからないものが俺の頭をガンと打ちつけてくるようだった。

 ペンを転がしたツルは、大きく欠伸をしてからホワイトボードへと向き直る。
 俺といえば、ツルが書いた文字から目が離せない。 

『去年死んでんだよ、安達の親』