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「えー、であるからして……」

 講師の声だけが響く大教室。
 多くの学生たちはほとんどが真剣な面持ちでテキストとホワイトボードを交互に確認し、講師の話に耳を傾けていた。
 わざわざ夏休みに受ける選択をした学生たちってのもあって、予想以上に静かな教室内に俺は既にビクついている。

 こんな真面目に講義受けた事なかった。
 つーか、……そろそろイライラしてきた。

 ツルは左利きで、俺の右側に座っている。何故かやけに距離を詰めて。
 普段ならぶつからないよう配慮くらい出来る奴なのにこれだけ近いってことは、明らかにわざとだ。嫌がらせにも程がある。
 俺の右手にあるシャーペンと、なぜかペンのままノートを取るツルのそれが手を動かす度にぶつかるのだ。

「……おい」

 もう一度触れた時に思いきりシャーペンをツルのペンにぶつけ、小声でツルを呼ぶ。
 ツルは素知らぬ顔で、反対の手で頬杖ついて今にも鼻声でも歌いそうなムカつく顔をしていた。

「おいってば。シカトすんな」
「はー邪魔しないでいただけますう?」
「邪魔してんのはおまえだろ」
「俺は真面目に授業受けてるだけですけど」
「どこが」

 小声で言い合いながらも、ツルは左手をぶつけてくる事をやめようとしない。
 トイレから戻った時に『さっきのアレ何だったんだよ』という問いに答えなかったらこうだ。つまり、なんでいきなり親の話を出したかってこと。