ツルは突然伏せっていた体勢をやめると鞄を横へ避け、頬杖をついて改めて俺を見る。
 窓際に座っているからか風に吹かれたツルの前髪が微かに揺れた。どれだけきっちりセットしてんだよと突っ込みたい程度だったけど、サマになるから困る。

 なんだよ。
 黙ってればイケメンとか言われる奴にこんな風に見られるのは居心地が悪い。何より気持ち悪い。

 俺は思ったままを伝えた。

「なんだよ? キモいんだけど」
「久住さー」
「だから何」
「なんか今日、髪フッワフワじゃね? ココ」
「ゲッ」

 自分の耳の上あたりをトントンと差したツルを見て俺は咄嗟にそこを隠した。
 寝坊したせいか。ちゃんとしてきたつもりなのに頭と目がちゃんと起きてなかったってことなのか。

「慌てまくってんだけど何? なんかやべぇの?」
「寝癖」
「ただの寝癖なら隠さんでも」
「ションベン行ってくる」
「もう始まんぜ?」
「すぐ戻る」

 髪を抑えたまま立ち上がり、俺は教室を飛び出した。