今入ってきたバカップルにお冷やを運び、ベルが鳴れば注文を取る。
 この時間に入る客のほとんどはあまりガッツリ喰わないから、楽な面もあった。勿論例外はあって、団体で呑めや騒げやという時もある。あくまで俺の働いた約2年の統計上のことだ。
 
 何を隠そう、俺は料理の盛られた皿を持つことがあまり得意じゃない。まだ新人バイトだった頃何回か失敗して皿を割り、バイト代から天引きという手痛い経験もある。
 ただし、変な客が多いのもまた深夜だ。

「お疲れ久住。時間」
「あっ、ハイ」

 裏へ回ったところへ、先輩バイトの穂高が声を掛けてきた。
 穂高の言葉に腕時計を確認すると、時刻は午前3時が近づいている。ようやく上がりの時間だ。腕を伸ばしてから首を傾けると、コキッと小さく鳴った。凝ったらしい。

「久住、それは裏でやれ。気持ちはわかるけどな」

 穂高は笑いながら窘めてくる。
 俺はウスと頷いて、欠伸を噛み殺しながら答えた。

「今日もお疲れさまでした。お先に失礼します」
「おう。お疲れ」

 腰巻きエプロンの紐を後ろ手に解きながら、事務所へと戻る。
 上京2年目の夏休み。
 特にこれといって特別な事のない、いつもの日々が続いていた。