「用とか絶対大したことないから」
「でも」
「毎回毎回同じことしか訊いてこないからマジでいいんだよ。ちゃんと食ってるかとか勉強やってるかとか今年も帰らないのはなんでとか、そういうパターンだろうし」
「……でも」

 安達のいいところは、何に対しても一生懸命なところだ。
 短い付き合いの俺にも十二分に伝わってくる長所であり、そういうところもいいなと思っている。だけど今の安達には懸命なばかりじゃない何かがあった。

「だからいいんだって」
「……でも、心配してるんじゃない?」
「わかってるけどさ」

 そして今の俺にとって、安達の懸命さはイラつくことしか出来なくなっていた。

「正直鬱陶しいだけだし」
「…………そう……かもしれないけど……」
「安達?」
 
 話している間に少しずつ後退していた安達の足が、完全に止まった。
 距離がなくなっていた俺たちの間にはまた数メートルの差がついて、俺も立ち止まる。
 歩いてついてくるならともかく、今の安達は立ち止まっているからだ。
 小走りに近付くと、安達は俯いて鞄の肩紐をぎゅうと握りしめているようだった。

「安達? どうし」
「久住くんはさ」
「え」
「もう少し、大事にした方がいいよ」

 安達と知り合ってからそう時間は経っていないけど、怒ってると理解した。
 聞いたことがないくらいに声が固い。
 怒鳴ったりはしないけど、静かに怒っている。