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 龍はそういう子だった。
 優しくて、とにかく優しくて。

 思い出すだけで、自然と口元が緩んだ。
 
 不思議と上手に扱える人の手に、龍の筆箱から失敬したペンを持った瞬間に思い出したのは、幼い頃の優しい想い出。
 龍と会話ができて、龍に触れて、龍にお手紙を書ける日がくるだなんて、あの頃の私は思ってもいないだろう。

 ……最期になんて書こうかな。
 やっぱり、ありがとうはたくさん伝えたい。

 あの不思議な長細い紙を「短冊」と呼ぶことを知ったのはずっと後のことだけれど、今私が短冊に願いを書けるなら何て書こうと、ふと思う。

 もっと生きたい?
 もっとこのままでいたかった?

 自問自答を繰り返して、首を振る。

 そんなことはもう、いい。
 私は充分だ。充分、倖せだったのだから。

 今私が願う事は、ただひとつ。

 龍がいつでもしあわせでありますように。
 龍がいつでも、笑っていられますように。


















『彼と彼女が過ごした夏』完