何色と表現したらいいのかわからない。

 それでも、別々の色がバッテンのように重なった模様のカバンが揺れている。
 それを背負った、小さな小さな少年が、私に向かって駆けてくる。

 ああ、そんなに走ったらまた転ぶよ。
 この前だって、かけっこで膝をひどくすりむいたばかりなのに、どうしていつもそんなに一生懸命走って帰って来るの。

 私は彼に聴こえるはずのない声を出しながら、彼にはわかるはずもない微笑みを浮かべて走ってくるのをじっと待っている。

「りーこ! りーこ!」

 ふにふにとやわらかいことを知っている、小さな手のひらを思いきり振ったから、ほら。
 持っていた四角くて長細い何かが、ひらひらとその手からふたつ、すべり落ちていった。

 水が落ちてこない時の空の色と、時々「おみやげ!」と彼が持って帰ってくる小さな花と同じ色をした、ぺらぺらした何かが。
 落としたことに気付かずまっすぐ私に向かってくる彼にそれを教えようと頑張ってみても、帰ってきた自分に挨拶していると思い込んでいる彼はやっぱり気が付かない。

 後ろから呆れたように歩いてくる彼の母親―――こっそり私は「お母さん」って呼んでいる―――はそれを拾い、彼の名を呼ぶ。