結局、あの後どうなったんだっけか。

 母親が悲鳴を上げたのだけは覚えているけど、原因が何だったかは思い出せない。
 父親は苦い顔をしながらも『庭に埋めなさい』と――ああ、わかった。父親の言葉を思い出したから、わかった。
 持ち帰った蝉は、ダメだったんだ。

 ぶふ、と小さく吹き出しながらも、俺は安達に言うべきことを思い出した。 

「なあ、安達」
「ん?」
「やっぱり俺からも謝っとく。ごめん、無神経なこと言って傷つけた」
「だからホントにもういいって。傷ついたわけじゃないよ」
「でも俺の気が済まないから。勝手だけど受け取って。悪かった。ごめん」
「……うん、わかった」

 絡めた指先に力を込めてみると、同じくらいの力が返ってくる。

「……あ、やべ、バイト先にも連絡入れなきゃ」
「え、なに、大丈夫?」
「理由言えば多分。最終までには実家帰るから」
「そうなの?」

 安達の顔が、パっと嬉しそうに華やぐ。
 自分の実家に帰るわけじゃないのに、本当に嬉しそうに。

「ウチの猫がね、大往生で。別れなくちゃいけなくなって」
「……そうなの……」

 同じ言葉を繰り返した安達の声が沈んだ。
 俺は、出来るだけ明るく返す。