サァサァと葉擦れの音が深くなってきた。同時に蝉の声も騒がしさを増す。
 大学の敷地はぐるりと囲うように樹が植えてある。夏は日除けになるらしいが、夏真っ盛りの今は辿りつくまでが汗だくだ。
 
 正門は北側。最寄駅は敷地の東側をぐるりを回ってからになる。
 誰にも会わない限りふたりきりというわけだ。
 首筋にはりついた幾筋もの髪を鬱陶しそうに剥がしながら、安達は続ける。

「話戻すけど、久住くんはどうして取ろうと思ったの?」
「あー……うん、まぁ……安達と似たようなもんかな」
「その答え方はずるくない?」
「や、マジだから」
「ほんとに?」
「ホントに。手に職ってのに特に同感」

 言いながら、ぺたんこの鞄を抱え直す。中身は今日の講義で使う分しか入っていない。
 あとスマホだ。……そうだ、スマホ。
 チャックを開けて、中に手を突っ込んだ。
 安達はさして気にする素振りもなく、さっきの俺の言葉に対し「そうかあ」と答えたきり黙っている。

「ゲッ」

 画面を見て思わず声が出た。
 着信履歴が母親で埋まっている。なんなんだこれ。怖ぇよストーカーか。