「……本当、ごめんね。私が子供すぎたんだ」

 呟いた安達の言葉が俺に向けたものとわかっていても、俺には空へ投げたようにも思えた。
 何ひとつ、かけられる言葉が見つからない。

 だってきっと、安達のそれは莉依子の言っていた『子供としての甘え』だ。
 いつだってそこにあると信じているから――信じていたから、安達は両親に甘えていた。
 
 俺も同じだ。

 何も言えないかわりに、そろりと右手を伸ばしてみる。
 安達の左手に僅かに触れた。
 これだけじゃただの偶然に過ぎない。……ちゃんと指先に触ってみた。

 驚いて安達がこちらを振り向いたのは視界の端に捉えていたけれど、俺は空を見上げたままだ。
 
 そして――なんと安達は、俺の指先に触れ返してきた。
 
 思わず手を振り払ってしまい、目があった安達の頬は、みるみるうちに赤くなっていく。
 夕陽のせいなんかじゃなく、耳も首も真っ赤になっていた。

「え!? 何ヤダ私勘違い!?」
「えっ!? いやだって安達はツルが」
「は!? だから違うって何回も言ってるじゃん!!」

 不毛な声を投げかけ合う俺たちはさぞ滑稽だろう。
 俺の顔はとんでもなく熱い自覚もあったけれど、夕陽のせいだと言い訳したい。