「去年の夏前にね。事故だったんだ」

 俺には何も言えなかった。
 安達が話してくれるなら黙って聞いていたいと思ったし、何より俺に掛けられる言葉なんて何ひとつない。

「この前久住くんに偉そうなこと言ったけど……。私もね、全然わかってなかったよ」

 オレンジ色が、安達を染めていく。

「うざいなー、ほっといてくんないかなー。いちいち電話とかメールとかめんどいし他にやることないの? 暇なの? とか思ってた。だってせっかくのひとり暮らしで、楽しくて。
 ……あの時もそう。夏休みずっとじゃなくてもいいからせめてお盆には帰ってきなさいよとか何とか、とにかくしつっこくて。前の日に電話来てたのに、シカトしちゃった」

 ふふ、と落ちた笑い声は自嘲に満ちている。

「今は何も来ない。ちゃんと食べてるの勉強してるのって心配の電話も、帰ってこいってうるさいメールも。なんにも」

 キィンと澄んだ音がして、白いものが打ちあがる。
 安達の視線は、球の行方を追った。

「バカだよね。メールとか電話とかまだ来る気がしちゃうんだ」

 俺に振り向いた安達の表情が眩しくて、よく見えない。口元が笑っているのはわかった。

「あんなにウザかったのに……今はずっと、すごく寂しい」

 何かが光っている気がしたけれど、目を眇めている俺からは判別できなかった。