「安達?」

 控えめに声をかけた途端、安達は弾かれたようにこちらへ振り向く。
 そして、俺の姿を捉えるや否や立ち上がった。

「久住くん、あの、私」
「あー、いいいい、そこにいて」

 ざりざりと坂を鳴らしながら、安達へ近づいていく。
 安達の顔が朱く見えるのは夕陽のせいだとわかっていても、たまらなく可愛く見えた。

「隣いいか? てか安達も座っていいから」
「あっ、うん、あのでも」
「ほら座って」
「私言わなきゃいけない事が」
「うん、座ったら聞くから。俺も座るから安達も座って」
「あ……ありがとう」

 あわあわと両手を動かしている安達は、小動物みたいだ。
 殴りかかってくるというより、あの両手を拳にしてポカスカ叩かれるのもそれはそれでイイかもしれない。

 なんていう妄想は置いておいて、ひとまず元のように安達を座らせる。
 隣に腰を下ろす了承を得た俺も続いた。……ただし、人間ひとり分はしっかりと開けて、だ。