聴こえてくるのは、蝉の音ばかりだ。
 蝉なんて気分をイラつかせる天才くらいに思っていたのに、今日は何だか泣きそうになってきた。

 やっぱり俺はおかしい。
 蝉の声を聴いて、母親と手を繋いで莉依子の待つ家へと戻った夏の景色ばかりを思い出すなんて。

「……人生って何があるかわかんねーなあ」

 呟いた俺の言葉に、「そうだな」とツルが答える。
 それがやけに真面目な声だったから、また泣きそうになってしまった。