「着いたな。ほら降りよう。コケないよう気ィつけて」

 肩にかかっている鞄の紐をクイと引っ張り、安達を促す。
 こんなに傍にいるのに、手にも腕にも触れられないのはもどかしい。でも、節度は弁えられる男でいたい。

「あ、ありがとう久住くん」
「べつに」

 そんな俺にも、素直に礼を言ってくれる所が好きなのかもしれない。

 大学の最寄りとあって、この駅で降りるのはほとんど同じ大学に通う学生たちだ。さっき安達が慌てたのも、万が一にもツルや周囲の人間がいたら困るからだろう。
 わかっていて困らせる小学生男子みたいなことをしているのは、俺だけど。

「久住くんはさー」

 改札を出て駅の階段を降りきったところで、安達が口を開いた。
 俺と少しだけ離れて後ろをついてくるようなこの距離感が安達らしくて、また好感度がアップした。

 何も気にしないですぐ横に並ぶばかりか所謂ボディタッチの多い女子が多い中、こういう、なんつーか、昔ながらの?

 諸々と思考が暴走している俺には絶対に気付いていない安達は続けた。

「なんで特別講義とったの? 知ってる人いて安心はしたけど」
「んー……安達は?」
「私? さっきも言ったけど取れる資格は取っておいた方がいいかなって」
「しっかりしてんだな」
「そういうわけでもないけどね」

 見た目はふわふわしてそうなのに、意外性はある。