「りいこちゃんだよ」
「……あいつなら」
「あの子さー、なんか……」

 これまでになかったほどの真面目な顔をして俯くツルを、俺は怪訝に思って先を待つ。

「なんか? なんだよ」
「いや……俺の気のせいだと思うんだけど……いや、うん……」

 ツルがこんな顔をするのは珍しい。滅多にない。
 間違いなく落とせると思ってた女子が落とせなかった時か―――そういえばついこの間、安達の親について教えてくれた時もこんな顔をしていた。
 前者と後者を並べていいものか俺もちょっとどうかと思うけれど、とにかく珍しい。
 
 長いため息を吐いては、何やらひとりでブツブツ言っている。
 まさかな、とか、俺やばい、とか何となく聞き取れるところもありつつ、何を言っているのか結局のところはよくわからない。
 あああと唸りながら、ツルは突然頭を左右に振った。
 バチンと音をさせ、両手で両頬を挟むように打った。

「おいツル大丈」
「てか超可愛かったよな? やばくね? 女子高生という破壊力! 卒業したからこそわかる稀有な瞬間!」
「……は?」

 さすがに心配になり手を伸ばしかけた俺を遮って思いきり振り向いたツルは、目を輝かせて続ける。