ツルがこういう顔をするときは、ロクな事を考えていないのは十分すぎるほどに知っている。
 前言撤回したい。
 やっぱりこいつは、軽くてへらへらしてて人をからかうのが大好きなお調子者に過ぎない。

「久住くん来てる? って言うから来てんじゃね? 会ってないけどーって答えたわけ。そしたらさー、話したいことがあってー探してるっつーからさあ」

 急にしなしなとした動きをしたツルは、気持ち悪いほどに作り込んだ女声を出す。

「久住くん、カッコハート!」
「キモいしカッコハートとか言うな」

 安達はお前が好きなんだよと言いかけてそこはグッと堪えた。
 俺が言うべきことじゃないし、何より自分で自分にトドメをさすなんて冗談じゃない。
 何より、今日はツルの悪ノリに軽くノれるテンションではない。

「……つか、怒らせたままなんだっつの」
「あれ? そっか、あれからマジで話してないのか」
「そもそもまともに会ってさえない」

 なーんだ、とつまらなさそうに返すツルは俺の肩から手を離した。左足を右膝に乗せて片胡坐を掻きながら、更にその上に右肘を乗せる。
 器用な奴だと見ていると、ツルは急に声を落とした。

「久住さぁ」
「何」
「りいこちゃんって、どした?」
「え」

 どうした、と言われても咄嗟に返す言葉が見つからない。
 地元に帰ったよと言えばよかったのに、不自然な間があいてしまった。