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 頬を撫でる風は、生ぬるくて気持ちが悪い。
 目の前で揺れる白いカーテンをぼんやりと眺めながら、俺はベッドに腰掛けていた。保健室のカーテンなんてじっくり見る機会はなかったけれど、よくよく見ると少し青みがかっていて、病院みたいだ。

 ――――コン

 短いノックの音がする。応える気にはなれなかった。
 どうしてかわからないけれど、俺は誰が入ってくるかわかっていた気がする。ここに来ている事は誰にも言わなかったはずだけど、本当に何となく。

 多分、莉依子をここに運んだ日に、こうやってノックを聞いたからだ。
 でも、今日はあの日みたいに何回も音はしなかった。 
 返事がない事をわかっていたかのように、引き戸はすぐに開く。

「なんだよお前サボり? つかセンセー見た事ないんだけどいつ来てるわけ」

 開いた瞬間に挨拶ひとつなく話しかけてきたのは、やっぱりツルだった。
 俺は構うことなく窓の外を眺めている。振り向く気力がなかった。

「もっしもーし、久住く――」

 俺の肩を掴んでツルが自分へと向けさせた瞬間、いつものようにへらへらしたツルの声も顔も固まる。
 眉間に皺を寄せて阿呆みたいに口を開けたツルのそんな顔、初めて見た。