「……莉依子」

 うまく言葉が出てこない俺に向かって、莉依子はスンと鼻を動かしながら首を少し傾ける。

 あれはガキの頃泣いてた俺に寄り添ってたときの、「大丈夫だよ」という言葉の代わり。
 いや違う、傾げたあとに、俺が何かを言うと必ず小さくにゃあと鳴くんだ。

 次々と頬を滑り落ちていく涙を拭わずに、俺は無理やり笑ってみせる。

「莉依子、ありがとう。お疲れさま。俺も大好きだよ。大好きだったよ」

(にゃあ)

 ――今日は、『わかってるよ』と、聴こえた。

 変わらない。変わっていない。あの頃のままの莉依子。
 届かないとわかっていながら手を伸ばしかけると、その姿は空気に溶け込んでいくように消えた。

 チリン、と、涼やかな音を残して。