——RIIKO KUZUMI——

 迷子になった時のためと印字された文字が、もう掠れてしまってよく見えない。
 それは同時に、莉依子がずっと首にしていたという証でもある。

 常に身につける首輪に刻印する印字も、漢字にしてほしいと親にせがんだけれど、苦笑気味に断られた。
 なんでだよケチだとか言いまくった覚えがある。今なら予想できる。おそらく単純に、漢字の印字が不可だったのだろう。
 だから本当に俺だけが漢字をつけて呼んでいたし、書いていた。

 フルネーム、久住莉依子。 
 ……俺がガキだった頃から傍に居た、猫の名前。

 雑種で毛が短くて、全体的に茶色の猫。
 身体の所々に黒の縦じまが走っていたけど、その中でも特に耳と耳の間に3本の太い縦縞が面白くて、まだ飼いはじめたばかりの頃しょっちゅうそこをつつこうとしては、莉依子に威嚇されたのを覚えている。
 足先だけ靴下をはいているように白い毛が混じっているのも、特徴だった。

 3日間一緒に過ごした莉依子は、本当に俺の知る莉依子だったのだろうか。

 そもそも、どうして俺は莉依子の事を『隣に住む幼馴染』だなんて思い込んでいたのだろう。