『龍? ねえ聞こえてる?』
「……ごめん、何でもない、莉依子がどうしたの」
『……あのね、……りいこちゃんが……』

 嗚咽に交じり消え入りそうなその言葉を、俺は静かに受け取った。
 終電までには帰るからと告げて電話を切る。テーブルにスマホを置くと同時に、ソレをつまみ上げてソファへ仰向けに寝転んだ。

 隣のおばさん、なんて居ない。
 俺に年下の幼馴染なんて居ない。
 隣に住む莉依子という幼馴染は、居ない。

 何がどうしてそうなったのか、俺には分からない。現実にこんなことがあり得るのか、正直信じられない部分も否めない。けれど。

「……証拠、があっちゃなぁ。信じるしかねーよな……」

 手のひらにすっぽり収まってしまうソレを握りしめ、俺はもう1度瞼を伏せた。

 夢で見た幼い俺が持っていた、ひらひらと揺れるモノ。
 長方形の紙。
 あれは七夕の短冊だ。1枚は幼稚園のクラスの皆で書いて、残った短冊は持ち帰ってもいいと先生が言った。家族のみなさんと一緒に書いて飾るのも素敵だねという、まぁよくある話だ。

 だから、俺は真っ先に見せたいと思ったんだ。あいつは何て書くだろうと、今思い返せば子供らしい考えで。

 ………だって、あいつは短冊に願いごとなんて書けない。