『そもそもおばさんって誰よ。ウチのりいこちゃんの事よ』

 ――ウチの、莉依子?

 弾かれるように、テーブルに置いた小さな革製のベルトを見つめた。

「莉依子……」
『そうよ。少し前から居なくなっちゃって、あんたにも伝えておかなきゃって思ったんだけど、何度かけても全然電話出ないから……忙しい中何度も連絡して悪かったとも思ってるけど』
「……や、いい……俺も出れなくて悪かったし……」

 母親に応えながらも、俺は気が遠くなりそうになっていく。

 俺の中の小さな違和感。全てが合致した。いや、合致じゃない。全部思い出した。

 そうだ。そうだったんだ。
 昨日莉依子の頬に手を触れて、何かがおかしいと思ったのは。おかしいと思いながらも、どうしようもない程の懐かしさを覚えたのは。

 ……呆れるくらいに、莉依子が言葉を知らなかったのは。

 目を伏せて、小さく深呼吸をして息を整える。
 電話の向こうに居る母親は、おそらく泣くのを我慢しているのだろう。合間合間に、何かを堪える気配が伝わってくる。