―――ピピピピピピピピピピピピ
「うおっ!?」
突然の電子音に肩が跳ねた。ジャージのポケットに入っているスマホからだ。
ひとまず持っていたソレをテーブルに戻し、ソファへと腰を沈めてポケットから携帯を取り出す。
確認のために画面を見るまでもない。固定着信音にしている。そしてここ連日ホラーばりに着歴を残していた相手。
「今日は朝っぱらからか……よ……」
『龍ちゃんが当たり前にあると思ってるものはずっとは続かないってことだけは、絶対に忘れないで』
ため息をつきかけた俺の脳裏に、真剣な顔をしていた莉依子が浮かぶ。
少しの間画面を見つめてから、俺は「通話」の文字をタップした。
「……母さん?」
『龍? 起きてたのね、よかった』
「……ああ」
『夏バテしてない? ちゃんとごはんは食べてる?』
「…………ああ」
『そう。ならいいの』
電話越しに、心からの安堵の声がする。
しばらくの間電話に応対しなかった文句を言われると思っていた俺は、拍子抜けすると同時に、母親の事をわかっていなかったことを痛感した。
違う。わかっていなかったんじゃない。
忘れていたんだ。
この人は、俺がある程度の年齢になってから部屋のものに手をつけたこともなかった。
クラスメイト達が「勝手に引きだしを漁られた」「エロ本が見つかった」などと騒いでいる中で、俺には何ひとつ経験がなくて、同感したことがなかった。
汚いし面倒くさいじゃない、なんて言っていたけれど、年頃の息子に気を遣っていたのだと今ならわかる。