耳の上チェック。
 よし、今日はそこまで癖がついていない。少し濡らすだけで大丈夫だろう。

 タオルで拭きながらキッチンへ入ると冷蔵庫を開け、麦茶を1杯。そしてリビングへ向かう途中、気付いた。

「光ってる? ……何だ?」

 テーブルの上に、何か乗っている。
 近付いて手に取ってみると、赤色……赤、というよりももっと深い、例えるなら真紅のような色がくすんだ革製のモノ。
 それがぐるっと1周しているのだけれど、繋ぎ合う部分であるベルトの金具が外れている。

「なんだこれ。あいつの忘れものか?」

 1度口にしてから考え直す。

「いや、まだ帰ったって決まったわけじゃないから、置きっぱにしたとか」

 表にしてみたり裏にしたりして、隅々まで見てみる。
 今の俺はさぞダサい姿をしているだろうなと思いながらも、何故か胸を急かすような気分になって仕方がない。
 細くて革製の……

「……ブレスレット?」

 にしては、さすがに小さすぎるだろう。
 いくら女子の手首だからといって、これは細すぎる。

 だけど見覚えがある。俺は確かに、これを知っている。
 キリ、っと頭のどこかが痛んだ。

 ……何かが変だ。
 あいつが――莉依子が現れた前日に見た夢を思い出す。過去の記憶を客観的に見ていたあの夢。

 長方形のぺらぺらした紙を、幼かった俺は誰に見せるために全力で駆けて行ったのか。
 息を切らして、流れる汗を拭おうともしないで、背中から呼びかける母親の制止すら振りきって、俺は誰の元へ――