しかも、俺の寝ていたところのような汗の跡はひとつもない。
 撫でてみてもさらさらとしていて、人が眠っていた痕跡を見つけることが出来なかった。
 夜中に髪を撫でた記憶があるから、ここにいたことに違いはないはずなのに、まるで最初から誰もいなかったみたいな奇妙さがあった。

 そんなわけないよなと首を振りながら、自分に言い聞かせるよう呟く。

「……おい? 莉依子?」

 先に起きてんのかな、あいつ。
 むちゃくちゃ早起きしてたとか。

 暑さと寝起きで頭がまとまらないせいだと首筋を掻きながらロフトを下り、部屋を見渡す。

 いない。

 おまけに、よくよく見ると、リビングの隅に置いてあったバッグもない。まぁあれから取り出すのは着替えくらいで、化粧道具の一つも持ってなかったみたいだけど。
 初日に持った時のあまりの軽さに驚いたくらいだ。
 たぶん――いや確実に、ツルの方が身だしなみを整える用具を常に持ち歩いている。

 それにしても、あれで高校生っていうんだからおかしいよな。
 最初から3日間って約束だったんだし、帰ったんだろ。あれだけ人を振り回しといて、別れの挨拶とか礼とかしていかないのはムカつくけど。
 でも、改めておばさんから礼の電話でも来たら一体どう反応したら………

 ん?
 あいつのおばさんって、どんな人だったっけ?

 首を傾げながら洗面所へ向かい、とりあえず顔を洗う。