ただ純粋に、龍の唇に触れてみたいと思っただけだった。龍とどうにかなりたいと思って触ったわけではない。
 確かにとてもいけないことをしてしまった気持ちにはなったけれど、それだって深く考えていたわけではない。

 黙ってしまった莉依子に、龍は眉をあげてわざとらしく肩をすくめる。
 冗談だよと軽く息を吐いて言った。

「俺は警告しただけ」
「けいこく?」
「他の男にはやるなって意味だよ。……つーか普通なら初日にとっくに食われてるっつーの」
「私おいしくないよ」
「そういう意味じゃねーよ」

 ったくこれだからガキは、とブツブツ呟きながら、龍は髪をガシガシと掻いた。
 ソファの背にもたれかかり、心底疲れたとでもいうようにまた息を吐く。
 子守りは楽じゃねぇだとか何とか莉依子の耳に届いた気もするけれど、今はスルーしておくことにした。

「まあとにかくだ。今後はやるなよ」
「………」
「返事は?」
「………」
「なんで返事しねーの」

 莉依子は悩んだ。ここで『はい』と言ってしまったら、3日かけてお願いするつもりだった事も駄目になってしまうのだろうか。
 少しの沈黙の後、莉依子は意を決して顔を上げた。視線が合った龍は目を僅かに見開いた。驚きの表情だ。
 今自分がどんな表情をしているのか、莉依子にはわからない。