「いってぇ!」
ドン、と音がした――ように莉依子には聞こえた――拳の勢いに、ようやく身体が解放される。
背に回された手が緩んだ隙に、莉依子は龍から離れて即座に立ち上がった。
「なに、龍ちゃん、いきなりなに、こわい」
息も絶え絶えに、龍へと視線を投げる。
自分でも持て余すほどに心臓の音がうるさく鳴り響いていて、顔が熱い。身体中の熱が顔へ集まっているみたいだ。気付けば、左胸を服の上から思いきり握りしめていてクシャクシャになっている。慌てて離して両手で頬を触ると、燃えるように熱い。
いってー、と胸をさすりながら起き上がった龍は、ため息をついて呆れるように莉依子を見遣った。
「お前さぁ……わかってなさすぎ」
「え? 何を」
「何をじゃねぇだろが」
「だって……わからないから教えてほしいよ」
龍はソファから脚を下ろし、今までのどのため息よりも深く長く息を吐き出す。
「ひとり暮らしの男の家に泊まって、酒出して、風呂あがりの匂いプンプンさせながら男の唇触ってさ。誘ってると思われても仕方ねーんだぞ」
「誘っ?」
「キスとかそれ以上とかのことだよ」
「………えっ」
「え、じゃねぇよ」
そうか。そういうものなのか。
ということはお酒に弱いというのは全くの嘘でさっき居眠りしていたように見えたのも嘘?
どこからが嘘?
莉依子の頭は混乱してきた。