莉依子の言葉を黙って聞いていた龍は、未だソファに横になったままだ。
 もう1度謝ろうと莉依子が身体を起こしかけたところで、龍は薄く笑った。

「………へえ」

 それだけ言うと、莉依子に手招きをする。
 にこりともにやりとも言えない笑い方をしたまま、こちらへ来いと威圧感すら覚える。

「え……なに? 龍ちゃん」
「いいから。こっち」

 従った莉依子がおそるおそる身を屈めようとしたところで、急に後ろから押されたように膝から崩れた。
 龍の胸元へと身体が傾いていく。

 違う、押されたんじゃない。

 莉依子は自分の背に回された手に気付いた。
 目の前には龍の顔があって、すぐにでも莉依子の唇が龍のそれに触れそうなギリギリなところまで近づいている。
 顔を少しでも動かしたら唇と唇が触れあってしまいそうで、莉依子は龍の胸元へ収められそうになっている自分の腕を、必死に踏ん張って避けようとした。

 でも、ソファに横になっている龍の上に倒れこむような形になっている上に、莉依子の背にしっかりと大きな手が回されているため、突き飛ばそうにもできない。
 もがく莉依子を愉しむように、目の前の龍はニヤリと笑う。
 莉依子の手は拳をつくり、龍の胸を思いきり叩いた。