あぢい。
 夏だから暑いのはわかりきっているし言い飽きたことだけど、あぢい。

 アパートから大学までに乗る電車は2本。
 1本目はそこまで混む路線ではないけれど、問題は2本目だ。
 進行方向と逆の足に体重を掛けながら、俺は目を瞑って心頭滅却を図っていた。

 蒸された人間たちが詰め込まれている、電車という密閉空間。空調が効いているはずなのに首筋には汗が流れてきていて、とにかく気持ちが悪かった。
 夏休みのこんな時間、まさしく休みを謳歌している学生やカップルばかりで憎々しいだけだ。
 でも特別講義を受けることを決めたのは俺だから、そこはぐっと堪える。

 さらば大学2年の夏。
 今年は金だけではなく将来のためにひと皮剥ける予定だ。

「―――久住くん?」

 主につるんでいる連中は口々に『真面目かよ』なんて言ってきたけど、そーだ、真面目で悪いか。
 なんてったってこんな時代、武器は必要なんだ。

「久住くん」

 昔から周りが遊んでいる時隠れて勉強したりして、あっと言わせるのが好きだった。
 その延長線上にあると思えばこんなこと―――