「………………」

 龍の薄い唇に、人差し指で軽く触れてみる。
 ふにりと指が沈む初めての感触に莉依子は驚いた。

 ――すごく柔らかい。それに、ちょっと熱い。

 触ったのは自分なのに、何だか大変なことをしでかしてしまったような気がして、慌てて屈めた身を起こした。
 それでも、莉依子の目だけは龍の唇から離れない。どうしてなのかよくわからないけれど、心臓がバクバクして頬が熱くなっていく。

 ――も、もう1回だけ…‥

 そろりと指を動かし、龍の唇にもう1度触れた。

「……何してんだよ」

 指を唇から離したのとほぼ同時に、龍の目がぱちりと開いた。
 身を屈めていた莉依子のすぐ目の前に、龍の瞳。確かに閉じていたはずの龍の瞼が、開いている。以前見たときのように顔を赤く染める事もなく、慌てる事もなく、じっと莉依子を見つめている。

「起きてたの? 酔ってたんじゃ」
「何してんだよって聞いてんだけど」

 静かに、けれど確実に相手を射抜くような視線を逸らさず龍は莉依子に重ねて訊ねた。
 莉依子の臓が高鳴る。こんな龍は、初めて見た。
 答えなくちゃと思うのに、口がうまく動かない。言葉が喉の奥で止まって詰まってしまっているみたいで、苦しく思えてくる。

 男の人みたいだ。
 龍が知らない男の人に見えた。