そしてこの浴室。
 両親の揃った家にいた頃は、洗濯どころか自分の部屋の片づけすらろくにしていなくて、それでも龍の母親は息子の部屋の片づけはしなかった。
 「ある程度の年齢になったのなら自分の事は自分でしなさい」という信条と、年頃の男子が親に見られたくないものくらいあるだろうという、彼女らしい気遣いからきていたものだった。

 ……このタオル、おうちのタオルと同じ匂いがする。

 莉依子は鼻に近付けて匂いを嗅ぐ。間違いない。でもまさか、家では何の洗剤を使っているかだなんてことを龍が母親に訊くとも思えない。

 無意識で選んだのだろうか。
 たったひとりで暮らすこの部屋に、あの家のにおいのするものを選ぶなんてと、莉依子の胸が温かくなってくる。

 あの家と同じ匂いのタオルで身体と髪を綺麗に拭いて、龍のにおいに満ちている部屋へと向かった。
 莉依子にとってこの上ない贅沢だ。

 ドアを開けると、すっかり片付いた机の上にはビールの缶が3本と缶チューハイの缶も3本転がっている。

 飲みたい飲むなと騒いだあれから、最初の1本は晩酌にと結局龍が開けた。