「……あ……莉依子……?」

 一瞬、放心したように龍の目がどこか遠くを見た。
 頭を掴む手も固まり、そして動きを繰り返してはまた止まる。ひどく不自然だ。
 莉依子は、おそるおそる自分の頬を撫でる龍の手に自分の手を重ねて、それを剥がした。

「どうかしたの? 龍ちゃん」

 目元を拭ってから明るく笑顔で訊ねると、龍はハッと我に返った。
 莉依子の頬から離れた自分の手を見つめてから、もう一度莉依子を見る。それはまるでロボットのような動きになっていて、龍の動揺がよくわかった。

「莉依子……だよな」
「そうだよ?」
「なんか俺……なんだろ、なんか大事な事忘れてる気がして……莉依子の頬撫でてたら、なんか……なんかそんな風に思って。なんだこれ……」

 龍の声が、だんだんと細くなっていく。
 莉依子に話しかけているのか独り言なのか、龍自身にもわからなくなってきた。莉依子は自分の頬を触りながら龍を見つめる。

 ……よく、撫でてくれたもんね。
 頭もほっぺも、撫でられるの大好きだったから。

 先程とは違う涙が溢れそうになり、莉依子は慌てて上を向いて飲み込んだ。