「……なあ。なんで莉依子が泣いてんだよ。怒られたのは俺だろ」
「私怒ってないよ……龍ちゃ」
「何」
「……龍、は、怒られたら泣くの」
「んなわけねぇだろ。お前みたいなガキじゃあるまいし」
「泣いてない」
「泣いてんだろ。なんだこれ」
「ただの水だから」
「あのな……」

 至近距離で顔に触れられた照れくささと、目元の熱いものの正体が涙であることを理解した莉依子は、立ち上がろうとした。
 しかし、頬に触れたままの龍の手は動こうとしない。
 泣いている莉依子を茶化すことなく、真顔のまま莉依子を見つめている。

「……龍ちゃん?」

 癖で「ちゃん」と呼んだのに何の反応もない。
 龍の目が少しずつ見開いていく。何かに気が付いたのか、微かに首を右に左に傾けながら莉依子の頬を確かめるように撫で続けていた。

「龍ちゃん」
「……莉依子?」
「うん、莉依子だよ。離してもらってもいい?」

 どこか気まずさを覚えた莉依子は龍の手を解こうと試みるものの、龍は未だ何かを必死に手繰り寄せるように眉間の皺を深くさせていく。 
 身体も強張っている。様子が変わった。
 手は、莉依子の頬を撫でているままだ。
感触を確かめるように触れている。
 懸命に、何かを思い出そうとしているように見えた。