「おい、ガキ。火遊びはまだ早いぜ?」
「おっさん。いい加減なことを吹き込むな」

 火遊びがどういう意味かはよく分からなかったけれど、ボクはおじさんにそう言われて頬っぺたが燃えるようだった。
 きっと真っ赤になっているはずの顔をうつむけて、テーブルに着く。四角いテーブルの上には油の染みがついた小汚い紙があって、そこにはボクの読めない文字たちが並んでいる。

「文字は読めないだろ? そいつが、この店のお品書きだよ。気になるのを指さしてみな。説明してやるから」
「お姉さんは、文字が読めるの?」
「ああ、少しな。元締めにいいように使われるのが私は嫌だからね。そういう思想統制には乗せられないように知恵をつけているの」

 お姉さんは難しい言葉を言う。

「シソウトウセイ?」
「私たちが文字が読めないほうが、都合いいってことさ。君も、少しくらいは読めるようになったらいい。そしたらここで馬鹿の一つ覚えみたいにラーメンだけを食べたりしない」

 そう言ってニヤッと笑いながら煙草の箱を取り出す。一本取りだして、火を点け、ぷはぁっと煙を吐いた。その一つ一つの仕草に目が留まる。

「じゃあこれは?」

 僕はお品書きにある料理の名前を指差した。

麻婆豆腐(マーボーどうふ)か。辛いぞ?」

 他にもホイコーロー、ガンシャオシャーなどがあったが、どれもこれも辛いんだと言う。ボクの顔がむくれてきたのを見て、お姉さんはぷっと噴き出した。仕方がないなあなんて呟いて、店のおじさんを呼ぶ。