それから、夕食に豆を煮込んだスープを食べた。
 お母さんとはいくつか言葉を交わしたけれど、その間もボクはずっと考え事をしていた。――穴のことだ。今までも壁に穴が開いたことはあったけれど、それはどれも高い位置だったり、小さかったり。でも、でも、今日開いた穴は、くぐり抜けられるくらいで、それも板を立てかけただけだ。板も倒れないように、角度をつけて立てかけているから、隙間が空いている。気を付ければ物音を立てずに抜け出すことができる! 外の――外の世界が見れるんだ! それも一人っきりだなんて初めてだっ!
 ボクはお母さんの目を盗んでは、ちらちらと板の隙間から外の世界を覗き見た。もう、わくわくしっぱなしで、にやにやしっぱなしで、どうにかなってしまいそうだった。

     ***

 冒険は、お母さんが寝静まった真夜中に決行した。
 こっそりと毛布から抜け出して、音をたてないように用心して。そろり――そろりと。途中で何度かお母さんの寝息が途切れて、気づかれたかと焦ったけれど大丈夫だった。
 身を屈めて、板と壁の間の隙間に、体を潜り込ませて――途中で板に身体が当たって、倒れてしまえばお終いだ。

 気を付けろ。ゆっくり、ゆっくり。

 ようやく抜け出した。息をこらえていたから、まるでボクは水面にやっと浮かび上がったようにぷはぁっと詰まらせていた息を吐いた。それから、目を閉じて大きく深呼吸をした。
 雨は上がったけれど、まだ湿った冷たい空気の匂いが鼻の中に入ってくる。カビと生ごみと、よくわからない油の匂い。――思わずむせ返ってしまったところで、あ、マズいと口をおさえる。家を出たとはいえ、物音を立てれば、お母さんに悟られる。

 急いで、だけど慎重に。ボクは歩みを進めた。