「外の世界は楽しかったか。それとも怖かったか」
楽しかった。お姉さんと会うことも出来たし。でも怖いことも沢山あった。そのどっちもだ、と答えるとお父さんは、「そうだろうな」と優しく返してくれた。そして、しゃがんでボクをおんぶさせてくれないかと言った。久しぶりに乗るお父さんの背中はいつだかよりも小さく見えた。
「重くなったんじゃないか」
お父さんは嬉しそうに言った。重くなったかどうかなんて自分ではよく分からない。それからお父さんは、ボクを背負って少し歩いた。ボクが住んでいる所は、海が近い。家の裏手から少し歩けば、小高い丘があって、その向こう側には鉄でできた箱がいっぱい置かれた港がある。
「そろそろいい時間だと思ってな」
その丘のてっぺんに着いた。お父さんは、顔を上げて「海を見てみろ」と言った。そこに広がっていた景色は――
まだ夜の青さが残る空を、はるか向こうの水平線から覗く太陽が、赤く染め上げようとしている。その光が港に並んだいくつもの鉄の箱を照らしていて、太陽の光と夜の境目で白黒の世界と色のついた世界がせめぎ合っていた。
「お前は朝焼けを見たのは初めてだろ。どうだ、きれいだろう」
きれいだ。思わず見とれて、口が開いたまんまで閉じることができないほど。
「お母さんは、お前が外の世界に出ることを嫌がっている。危険だからとな。だけど男は外に出ていかなくちゃならない。だからお父さんはお前に知って、そして覚えて欲しい。どれだけ外の世界が危険で辛い場所でも、外の世界にはきれいなものもあるってことを。それは外の世界に踏み出さなければ見られないってことをな。だから、よおく見ておけ。――これが、朝焼けだ」
きらきらと光る水面。
赤く染まる雲。
光の影で真っ黒になっている木々。
鳥たちの声。
冷たい空気の匂い。
その全てを焼き付けろとお父さんは言った。この景色は、外にしかない。やっぱりどれだけお母さんに怒られても、外の世界を冒険してみなくちゃいけない。これは、きっと憧れとかそういうものではなくて、ボクがやらなくちゃいけないことなんだ。
楽しかった。お姉さんと会うことも出来たし。でも怖いことも沢山あった。そのどっちもだ、と答えるとお父さんは、「そうだろうな」と優しく返してくれた。そして、しゃがんでボクをおんぶさせてくれないかと言った。久しぶりに乗るお父さんの背中はいつだかよりも小さく見えた。
「重くなったんじゃないか」
お父さんは嬉しそうに言った。重くなったかどうかなんて自分ではよく分からない。それからお父さんは、ボクを背負って少し歩いた。ボクが住んでいる所は、海が近い。家の裏手から少し歩けば、小高い丘があって、その向こう側には鉄でできた箱がいっぱい置かれた港がある。
「そろそろいい時間だと思ってな」
その丘のてっぺんに着いた。お父さんは、顔を上げて「海を見てみろ」と言った。そこに広がっていた景色は――
まだ夜の青さが残る空を、はるか向こうの水平線から覗く太陽が、赤く染め上げようとしている。その光が港に並んだいくつもの鉄の箱を照らしていて、太陽の光と夜の境目で白黒の世界と色のついた世界がせめぎ合っていた。
「お前は朝焼けを見たのは初めてだろ。どうだ、きれいだろう」
きれいだ。思わず見とれて、口が開いたまんまで閉じることができないほど。
「お母さんは、お前が外の世界に出ることを嫌がっている。危険だからとな。だけど男は外に出ていかなくちゃならない。だからお父さんはお前に知って、そして覚えて欲しい。どれだけ外の世界が危険で辛い場所でも、外の世界にはきれいなものもあるってことを。それは外の世界に踏み出さなければ見られないってことをな。だから、よおく見ておけ。――これが、朝焼けだ」
きらきらと光る水面。
赤く染まる雲。
光の影で真っ黒になっている木々。
鳥たちの声。
冷たい空気の匂い。
その全てを焼き付けろとお父さんは言った。この景色は、外にしかない。やっぱりどれだけお母さんに怒られても、外の世界を冒険してみなくちゃいけない。これは、きっと憧れとかそういうものではなくて、ボクがやらなくちゃいけないことなんだ。