「ここが君の家か」

 なんてそれだけの言葉でちょっと恥ずかしい。「まあ、うちも似たようなもんだ」なんてお姉さんは言ってたけれど、ボクの家がかっこ悪いことに変わりはない。

「さ、今夜はたまたま運が良くて、いいお姉さんに捕まったけれど、次はそうは行かないぞ」

 しゃがんで目線を合わせてから語りかける。途中、目をそらしたら両肩をつかまれた。大きな声を出されることはなかったけれど、きりりとした瞳は迫力があった。もし今度、夜に抜け出したりしたら大目玉を喰らうだろう。

「じゃあ、もうお姉さんには会えないの?」

 だから、思わず心の声が漏れてしまった。お姉さんは、ボクの問いかけにはすぐには答えてくれなかった。少しの間だけ、静かでとんでもなく長い時間が訪れた。
 やがて、ボクの頭の上にぽんっと温かい手のひらが置かれて。

「しおれるなよ。昼は……だいたい出払ってるけどさ。そうだ、その薬莢を今日のガレージのトラックにでも吊り下げに来てくれよ。手紙ぐらいは返してやるから」

 手紙、お姉さんと手紙を送り合うことができる! 直接会えなくても言葉を交わすことができるんだ! それが分かっただけで嬉しくて嬉しくて――

「本当? じゃあ、絶対書く! 絶対に!」

 そんな言葉を何も考えずに言ってしまうほどだった。お姉さんは「わかったわかった」と苦笑いをこぼす。それから、お姉さんも帰らなくちゃいけなくなって、お姉さんに手を振ってその姿が見えなくなったところでボクはようやく気付いた。――どうやって手紙を書いたらいいか分からないってことに。