「うまかったろ?」

 お姉さんの言葉に僕は、地面をみつめたまんまでうなずいた。なんとなく、お別れが近い気がしたから。だって、空の色が少しずつ明るくなってきている。もう少ししたら、お母さんも起きるかもしれない。そう考えると、家に帰るのが不安になって来てしまった。

「なにしょげてんだよ」

 とお姉さんの手がボクの頭をくしゅくしゅと撫でた。長く伸ばした爪の感覚が胸をちくちくと刺すよう。独りで帰すのは不安だからと、家までついてきてくれるみたい。だけどそれはそれで、自分の家を案内することが、一緒にいる時間を短くしているみたいで嫌だった。わざと間違ったりしてみようかなんて思ったけれど、怒られそうだからやめた。きれいなお姉さんだけど、お父さんと同じ殺し屋だから、怒ったら怖そうだ。
 家までの帰り道は、何とか間違えずにまっすぐに帰れた。初めての冒険で頭がさえていたからかな。
 あらためて自分の家の真ん前に立つと、かっこ悪いなって思う。ぼうっと見ていても屋根が傾いているなあって分かってしまう。トタンや木材を立てかけてつなぎ合わせただけの見た目は、ボクがつくった積み木の家の方がずっと立派だと思ってしまうほど。壁には穴も開いているし。